道具は人を急かすべきではない——人間本位の設計を問う
——最近の道具は、どれも何かを急かしてくる気がします。アプリを開くたびに赤い通知の数字があって、見終わるまで落ち着かない。
「それは多くの場合、設計の結果です。通知のバッジや自動再生は、利用者の利便のためでもありますが、同時に関与を測る指標を押し上げます。急かす感覚は、副作用ではなく、しばしば機能なのです」
本稿は、ひとりの利用者と、製品設計に携わってきた立場との架空の対話という形をとる。論点を整理するための構成だが、語られる主張はいずれも、実在の研究者が公にしてきた見解にもとづいている。
「人間本位」とは誰のことか
——「人間中心の設計」を掲げる製品はたくさんあります。あれは本当なのでしょうか。
「言葉としては正しい。ただ、人間の何を中心に置くかが問題です。元グーグルのデザイン倫理担当で、人道的技術センター(Center for Humane Technology)を立ち上げたトリスタン・ハリスは、多くの製品が人の心理的な弱点を利用するよう最適化されてきたと指摘しています。中心に置かれているのが利用者の関心ではなく、利用者の関心を引き続ける能力だとしたら、それは人間本位とは呼べません」
——引き続ける能力、ですか。
「ええ。哲学者で元グーグル社員のジェームズ・ウィリアムズは、著書『Stand Out of Our Light』で、技術は私たちの注意を私たち自身の目標から逸らすことがある、と論じました。問題は個々の機能の善悪ではなく、何を最適化の目標に据えているか。そこに人間本位かどうかの分かれ目があります」
指標が思想を裏切る
——では、急かさない道具を作るのは可能なのですか。
「技術的には難しくありません。難しいのは、成功を何で測るかを変えることです。滞在時間や開封率を成果とするかぎり、設計は人を引き止める方向に進みます。もっとも、ここには反論もあります。利用者が長く使うのは満足の証だ、という見方です」
——その反論には、どう答えますか。
「長く使うことと、使ってよかったと感じることは別物です。ウィリアムズもハリスも、ここを区別すべきだと主張しています。裏を返せば、用が済んだら静かに退場し、利用者を生活へ返す道具こそ、注意を尊重していると言える。初期設定を穏やかに保つことも、その一例です」
尊重を、測れる形にする
——結局、何が必要なのでしょう。
「尊重を、測れる尺度に翻訳することです。たとえば、利用者が目的を達して離れるまでの速さを成功とみなす。割り込みの少なさを品質指標に組み込む。理念だけでは設計は変わりません。注意経済の力学に抗うには、別の指標を用意する必要がある」
対話を通じて見えてくるのは、人間本位という理念が、指標という具体に支えられて初めて意味を持つということだ。道具が人を急かすかどうかは、設計者がどんな数字を見て仕事をしているかに、静かに、しかし確実に表れる。